昭和43年12月、松下電器中央研究所前の広場に、科学と工業の先覚者の像が建てられた。中央の台座にエジソン(アメリカ・発明家)の高さ2.4メートルの全身像が配置され、その周囲には豊田佐吉(日本・発明家)、マルコーニ(イタリア・発明家)、オーム(ドイツ・物理学者)、佐久間象山(日本・学者)、平賀源内(日本・学者)、ファラデー(イギリス・物理学者、化学者)、アンペール(フランス・物理学者)、橋本曇斎(日本・蘭学者)、関孝和(日本・数学者)、フィリップス(オランダ・経営者)の胸像が円形に並んでいる。この11名はいずれも、近代の科学技術の発展に貢献した内外の功労者で、これらの人々の功績を称えるとともに、社員お互いの励みにもしたいとの松下幸之助の思いから建てられたものである。
 エジソンを中央に配置しているのは、松下幸之助が電球の製造に取りかかったとき、電球を発明したのがエジソンであることを知り、その当時から深い関心と尊敬の念をいだいていたことによるという。特に松下幸之助は、師に恵まれなかったエジソンが、指導者はなくても、聞いた話、目に映ったすべての事物をことごとくわが師として学びつつ、大きな業績を残したことに感銘を深くしていた。
 昭和48年、技術担当責任者への講話の中で松下幸之助は、この科学者の像について次のように述べている。
 「もし皆さんが本社へ来て、中央研究所に用事があって、入りしなにエジソンをはじめとする科学者の像を見たとき、そこに何か感じるものがあっていいと思う。瞬間にホッとエジソンの顔を見る。そのときに何か頭に通り抜けていくものを感じるか感じないかということである。もし感じない人があったとするならば、きょうから感じてもらいたい。これはエジソンの像だけのことではない。会社の工場へ入って、そこで何か感じるものがあるかどうか、そういうものを感じることなしに、技術者として自分は一人前だという誇りを持つことは、少しおこがましいと思う」

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